会長挨拶


第59回日本循環器病予防学会学術集会
会長 大石 充

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
心臓血管・高血圧内科学 教授

 

 この度、第59回日本循環器病予防学会学術集会を2023年6月3日(土曜日)、4日(日曜日)の2日間に渡り鹿児島県民交流センターにて3年ぶりにオンサイトの形で開催させて頂くことになりました。新型コロナ感染症の猛威が全世界を長きにわたって支配することにより、学術集会のあり方もweb主体に大きく変化しました。Webinarは手軽に参加できて、時間的ハンディをなくして、勉強の機会が増える一方で、ディスカッションやプレゼンテーションの緊迫感が希薄となることが問題と思っています。特に卒後数年の若手が対面でのプレゼンテーションをしたことがないということに衝撃を受けて、同じ悩みや目標を持った人とのディスカッションを通じて新たな発想を得たり、新しい人との出会いの場が提供できたらいいなと思い、オンサイトでの開催にこだわっております。ただ、webの良さも取り入れたいと思っており、シンポジウムや教育セミナーなど教育的なコンテンツはオンデマンドでHP上にて後日配信するシステムを考えております。
 学会テーマは「地方と共に諦めない心で循環器予防 -予防に勝る治療なし-」とさせていただきました。この二つのテーマに対する思い入れを書かせていただきます。私が心臓カテーテルチームの一員として循環器医療の研鑽を積んでいた桜橋渡辺病院は全国屈指の循環器救急病院でした。ある時、40歳代前半の急性前壁心筋梗塞が救急搬送されてきました。速やかに再疎通療法が成功し不安そうな奥様や小さなお子様に治療終了を説明していた矢先に、カテ室から悲鳴のようなコールがあり、駆け付けたところ自由壁破裂による心停止でした。緊急手術適応にもならない状態であることを奥様に説明した時の半狂乱となった姿を思い出すと未だに涙が出てきます。治療として成功でしたが一家の大黒柱を一瞬で失ったわけで、「心筋梗塞にならなければこんな悲劇は生まれなかった。予防に勝る治療はないよね。」という思いを強くしました。その後循環器救急から高血圧に軸足を移しながら10年前に鹿児島に赴任しました。前任地大阪に比べて行政や市民との距離が近く、多くの自治体とのかかわりの中で高血圧や高齢者医療を中心に循環器病予防に携らせていただいております。心臓カテーテル治療では完璧な冠動脈になるまで何度もバルン拡張を繰り返していましたが、高血圧では降圧目標付近で「もういいかな」と治療を止める症例を数多く見ました。最後まであきらめずにもう一歩頑張れば十分な予防効果が得られるはずであり、そのためには医師だけでなく行政も交えたチーム医療が必要であると感じています。そこで本学術集会のテーマを前述の2つとさせていただきました。
虚血性心疾患のみならず弁膜症や不整脈、先天性心疾患に至るまでカテーテル治療がなされる時代となり、デジタル技術の進歩により画像診断も新しい技術が次々と開発されて、循環器医療は大変華やかなイメージとなっています。一方で循環器病予防はコツコツとデータを取りながら、患者及び社会啓発を繰り返す地味な側面があります。しかしながら医療の究極の目標は疾患の一掃であり、そのためには予防を充実させることが大変重要であると考えております。そのような観点から本学術集会では、ITやAIといった先端技術だけでなく、若手教育セミナーとして医療統計に関する勉強会やメディカルスタッフへの教育セッションも考えております。またディスカッションを重視するという観点からディベートセッションも設けております。鹿児島の地で黒牛・黒豚・焼酎・海の幸に舌鼓を打ちながら楽しいディスカッションをしていただくことを期待しております。